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2005/06/05

万博大学第6回講義ノート「ナノテク~技術を越える技術~」遠藤守信氏

 カーボンナノチューブの第一人者遠藤教授の講演を抄録する。
 
 20世紀はすばらしい技術進歩の時代でした。「技」という字は手へんに支えると書きます。人を支えるものが技術ですが、その恩恵を通り越して環境問題等が起こっています。21世紀は人のためになる、人に優しい技術の時代にしたいです。その「技術を越える技術」がナノテクです。
 「ナノ」とは1mの100万分の1の大きさです。ナノカーボンは炭素原子からできていて、サッカーボール型だったり、かご形だったり、筒型だったりします。素材として代表的なのは、炭素でできた細い筒、カーボンナノチューブです。 
 NASAにスペースエレベーターという計画があります。大西洋上のいかだから宇宙ステーションへ電力等を供給するためのエレベーターを作ろうという現代版ジャックと豆の木みたいな話ですが、カーボンナノチューブによって実現が可能とされています。できるはずがないと思われるかもしれませんが、ケネディが月へ人間を送ると言ってできるはずがないと思ったものでしたが10年もたたずに実現しています。また、カーボンナノチューブを使ったピラミッドのような建築物も考えられています。これは高さ3800m。いずれも夢のような話ですが、不可能にチャレンジして新技術を生み出すというか思いが大切です。
 経済のサイクルと科学技術の関係を、コンドラチェフが指摘しています。新しい科学技術が生まれるとき、経済は大きく発展します。最初は蒸気機関、次は半導体やコンピュータが景気を支えました。今は買いたいと思うような新しいものがありませんから景気の停滞が起こっていますが、やがてナノテクの時代が来ます。
 日本では90年代以降空洞化が進み、電機業界でも雇用者数が激減しました。15歳から24歳の若年層では4人に1人が無業者ですが、空洞化で魅力的な職場がないことも原因の一つかもしれません。失業率は4.4%、今後倍増する可能性もあります。世界の電子工場と呼ばれた日本も、部品・製品とも対米輸出に変わって対中輸出が伸び、今や中国がアメリカへ大量の製品を輸出しています。世界に貢献する日本をどう作るかも課題です。
 
 世界初のコンピュータ「エニアック」は18000本の真空管を使い、2tトラックほどの大きさのものでした。スピードも遅かったのですが、それでも大砲の弾が到着する前に大砲の弾の到着地点を計算できたと賞賛されました。技術開発のスピードは加速化しています。5,60年前のエニアックと今のコンピュータを比べると、記憶容量・計算速度で100万倍速く、値段は1000分の1になりました。
 しかし、半導体の限界が近づいたとも言われています。半導体の集積度が18ヶ月で2倍になるのをムーアの法則といいますが、2010年が限界といわれています。コストも限界です。シリコン基板は、シリコンインゴットをスライスして作りますが使用するのはわずか4000分の1。超純水も大量に使い、資源とエネルギーの無駄遣いといわれています。
 20世紀の技術は限界に来ています。今までの技術の延長では、かつて経験したことのない滝にさしかかっているといっていいでしょう。技術変革、イノベーションが求められています。新しい原材料、ナノマテリアルズ・イノベーションです。
 イノベーションという言葉を最初に使った政治家はクリントンでした。彼は、本当の意味でのモノづくりに舵を取り直すことを掲げ、NNIを発表しました。ブッシュはそれを受け、ナノテクは2050年頃には巨大な産業分野になり、1兆ドル規模の市場となるだろうと述べています。経団連は日本のナノテク市場を30兆円と予測しています。
 
 ナノとは、ギリシア語でこびとです。ナノメータとは100万分の1ミリですが、具体的に示してみましょう。地球を10億分の1(10の8乗分の1)の大きさにするとサッカーボール大になります。サッカーボールを100万分の1(10のマイナス8乗分の1)の大きさにしたのがナノです。
 物理学者ハイマンは「物質の極微の底には多くの未知で魅力の世界がある」といいましたが、ナノテクはまさにその世界です。nmスケールの科学と技術は、従来のものとは別の異次元の世界です。ナノスケールによる新しいパラダイムはたとえばこんなものです。
 トランジスタは100万個の電子が動いてスイッチを1回on/offします(講義では図が動くスライドでの説明のため、大変にわかりやすかった)。ところが同じものをナノテクで作れば、たった1個の電子でいいのです。消費電力は数万分の1と格段に安くなります。これを使えば、パソコンも数年に1度の充電ですむようになるでしょう。
 また、ナノの世界では、接触それ自体が機能を持つようになるため、異なったさまざまなプロセスが可能になります。20世紀の概念では接続は固定ですが、ナノは多重接続なのです。音を検出する装置に使えば、より敏感に(小さいものをより小さく、弱い信号をより弱く)検出できるのです。これを鼻の機能を調べるのに使ったりもできます。 ナノテクでカプセル内視鏡がすでに生産され、飲み込み型の胃カメラとして実用となっています(商品名NORIKA3)。
 ナノメータになると生命観と物質観が合体できます。カーボンナノチューブの直径は約2nm。これはDNAの直径とほぼ同サイズなのです。
 ナノテクは、より自然に近づける、より自然になる技術です。化学、物理学、生物学のすべてを扱える技術です。
 ここで前半のまとめをします。ナノは、ただ小さいというだけでなく、そこには異次元の世界が拓かれる。そしてナノテクノロジーは将来の人工的技術をより自然なものへと進化させるものである。
 
ナノによる新しい戦略は、自然な方法なのです。 
炭素は昔から文明の利器でした。16世紀、天然のグラファイトに糸を巻いた鉛筆は、船でもインクがこぼれる心配なく文字が書ける優れた道具でしたし、その後のケスナーの鉛筆も知られています。エジソンは京都の竹を焼いた炭を電球のフィラメントにしました。宇宙時代に入り、ロケットの素材にカーボンファイバーが使われました。
 ナノテクを先導するカーボンナノチューブ(CNT)は、飯島澄男氏が1991年に発見しましたが、量産化の方法は私のフランス時代に見つけました。図にすれば鉄の玉が炭素の筒をのばしていくのですが、これは偶然に見つけました。当時基盤を磨くのに茶色のサンドペーパーを用いていたところ、たくさんのカーボンナノチューブができていた。ところがある日できなくなってしまった。その原因が黒いサンドペーパーだったのです。黒いのを、残っていた茶色いサンドペーパーの端切れに変えたら、またカーボンナノチューブができたのです。茶色のサンドペーパーに含まれるのは酸化鉄、黒い方はシリコンカーバイドで、このことで鉄の役割を見つけたのでした。「幸運の女神は準備されたところにやってくる」(パスツール)と思いました。この方法を種まき方と名づけ、その後量産を可能にする浮遊種まき法に発展させました。ゲーテはこう言っています。「発見には幸運が必要であるが、発明には知性が不可欠である。」(筆者注:このあたり、独立行政法人 物質・材料研究機構の遠藤氏インタビューに詳しく書かれている。)

 カーボンナノチューブは、炭素の筒にねじれをかけて作りますが、ねじれの度合いによって電気的特性が異なります。たとえば銅の性質を持つCNT量子ワイヤーは銅の10倍以上によく電気を通し、重さは銅の6分の1です。さっき見たスペースエレベーターのために、今年4月に発注したといいます。スペースエレベーターは実現する可能性のあるものなのです。
 カーボンナノチューブを利用したもの一つに、1980年代後半からのリチウムイオン電池があります。電池は-極にカーボンが使われていて、これがアコーディオンみたいに伸び縮みすることで充放電を繰り返すのですが、そのうち伸び縮みしなくなって充電不能になります。ところがCNTを使えば充電容量が700回も落ちないんです。いま、高性能なリチウムイオン電池のほとんどに遠藤チューブが使われています。
 では、鉛電池は。こちらは製品になって120年ですが、性能は5倍にしかなっていません。ところがこれもナノチューブ入りなら寿命は2倍になります。でも売れない。電池メーカーさんがつぶれちゃいますから。それでも環境保護のため上高地のハイブリッド・ディーゼルバスで採用されるなど、追い風の状況になってきました。
 カーボンナノチューブの割れない性質を利用して、携帯電話のデジカメ部分のレンズケースにはCNT入りの樹脂が使われています。樹脂入りのCNTは自動車のリヤウインドや外国では車体にも使われ出し、軽量化による燃費向上を果たしています。
 CNTはゴルフクラブにも使われています。ミズノのNP001のシャフトです。10ヤード余分に飛びます。遠藤チューブをよろしく(笑)。
 世界最大の旅客機エアバスA380にも、2006年から、どことは言えませんがあるところにCNTが使われることになっています。 
 銅の5倍の熱伝導率を利用して、高速で走る列車等にCNTが使われだします。たとえばカリフォルニア・東京間を1時間で結ぶオリエント・スーパー・エクスプレス。マッハ5の飛行機です。さらにNASAのスクラムジェットは、2050年頃の予定ですが、ワシントン・東京間を45分で結ぶマッハ10の飛行機です。これらもどことは言えませんがCNTが使われることになっています。
 医学分野でもCNTが活用されます。世界一細いカテーテルはCNT製の直径0.53ミリ。細いだけでなく血栓が付着しないため、肝がんや脳疾患の治療に期待されています。
 チューブではなくカップスター型の素材では、ソニーのスピーカーコーンに用いられて、人体に聞こえない低音を出すそうです。聞こえない音を再現することで、よりコンサートホールの世界に近づけます。
 自動車用の燃料電池は2010年頃実用化されそうです。
 二層カーボンナノチューブは、圧縮に強いという特徴があり、飛行機などに使われます。また、2層チューブに熱を加えてくっつける「溶接」もでき、期待されています。ただ、いよいよ遠藤チューブの大量生産が始まって儲かるかというと、残念ながら特許が切れてしまっています。
 
 ナノはミラクルです。人は身長の6倍の速さで走ることができます。馬は体長の10倍、チータは20倍です。しかしCNTの延びる速度は触媒粒子粒の8000倍。高速の生産が可能です。
 技術は人を支え、助ける手段です。21世紀は真の技術の世紀---人類の英知で創生する愛・地球博が、技術新世紀の新しい幕開けとなることでしょう。

(お断り)この講義ノートは私個人のメモと記憶のみに頼って書いていますので、間違いや欠落もあるかもしれません。また、できる限りオリジナルの講演で使われた表現を再現しようとしているため、かえってわかりにくくなっている面があるかもしれません。その点をお含みの上お読みくださり、間違い等があればご指摘をお願いいたします。

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